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飲酒関連食道癌の予防と早期発見の試み

 

横山 顕 国立療養所久里浜病院 内科医長

 

大酒家の癌検診がなぜ必要なのか
飲酒と喫煙習慣はしばしば共存するが、二つ習慣が口腔内癌や咽喉癌および食道癌の重要な危険因子であることは、アジアと欧米の疫学研究から既に明らかとなっている1)。表1はフランスの症例対照研究からの報告であるが、食道癌に対する飲酒と喫煙の著明な相乗的影響が示されている2)。同様の相乗的影響が、口腔内、咽頭、喉頭の癌でも報告されている1)。動物実験では、アルコールの発癌性に関する充分な証拠は得られていないが、ヒトでの膨大な疫学データに基づいて、WHOの国際癌研究委員会は、1988年に“アルコール飲料はヒトに対して発癌性を有する。”と結論した1)。このような疫学研究のめざすところは、環境物質(アルコールとたばこなど)が引起す発癌の1次予防、早期発見、さらに早期発見した癌を手術せずに簡単に治療することにある。日本では、内視鏡、色素内視鏡、内視鏡的粘膜切除術などの早期消化管癌に対する診断および治療技術が、近年、急速に進歩し、広く普及している。この様な技術を用いた癌検診による癌予防の試みは、大酒家のような発癌の危険性の高い集団には特に適している。

表1 2)食道癌の相対危険度と飲酒喫煙量(フランス)

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国立療養所久里浜病院アルコール症センターでは、1993以来、40歳以上の男性アルコール依存症患者に対する癌検診プログラムの一環として、食道ヨード染色を用いた上部消化管内視鏡検診を施行している。
最初に、食道の組織解剖について簡単に説明する。食道は内腔側から上皮層、粘膜層、粘膜下層、筋層と呼ばれる。癌細胞は上皮層から発生し、粘膜層へ浸潤し、さらに粘膜下層、筋層へと達する。血管やリンパ管、リンパ節へ癌が広がるのは、主として粘膜下層へ癌が達した後である。そのため、癌が上皮内や粘膜層に留まっているうちに診断治療された患者の5年生存率は85〜100%と高いが、粘膜下層に達した癌患者では50%へと低下する3)。食物がしみたり、ひっかかったりする症状がでた患者の多くは、進行した癌である

 

 

 

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